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第167回 芥川賞候補作 鈴木涼美「ギフテッド」 を読んだ

 

 

 

30歳手前の繁華街で働く女性の話。その母親というのが詩人を目指していて、しかし売れずに理想と現実のギャップに苦しむ。母親の世代には夢があったが、娘の時代には夢も希望もない、という時代性も読み取れる。

 

ただ、作品の年代は911のテロから8年とのことなので、十年以上前の話のようである。出てくる携帯も折りたたみ式のガラ携である。

 

心理描写は少なく、その代わりに背景を書き込んで登場人物の気持ちや思考を描き出している。タバコを吸ったり、風呂に入ったり、足音を描写したり、刺青を細かく描写したり、町の果物屋やその店の店員や利用客などを描く。

 

全体的に暗いトーンであり、救いのない物語であり、その辺は前回の受賞作と似ているかもしれない。

 

ネタバレ注意

 

母親のことが好きだったという老境にさしかかった男が現れて、800万円も置いていくのであるが、謎である。おそらく、母親との間に何か色々あったのだろうが読み取れない。後、母親が娘に根性焼きを食らわせた上にライターで火をつけて大火傷を負わせたりするのであるが、その辺りも曖昧で読み取れない。

 

あえて読み取るものではなく、そういうものなのだ、ということで片付けてしまえばいいのであるが、その他の部分はやけにリアルのなのである。書き込まれているのである。だから、余計に目立つ。

 

救いのない作品と書いたが、最後に母親が「産んでよかった」という。何がよかったのかさっぱりわからない。最後の母親の詩はうまい。

 

多分、この作品は最後の母親の詩から生まれたような気がする。死があって、冒頭の文章が生まれて、そこから物語が広がっていったのではなかろうか。プロットがあって伏線を張ってという感じは全くしない。そこも前回の受賞作に似ているかもしれない。

 

前回と似ているという理由で、受賞は難しいだろう。