文学・文具・文化 趣味に死す!

小説家 星香典(ほしよしのり)のブログ。小説、映画、ファッション(メンズフォーマル)、政治、人間関係、食い物、酒、文具、ただの趣味をひたすら毎日更新し続けるだけのブログ。 ツイッター https://twitter.com/yoshinori_hoshi  youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UC0YrQb9OiXM_MblnSYqRHUw

アフターワクチン 第17回 その6

 

 もっと分かるように話して欲しい。それが僕の切実な願いだ。ここで死ななければならないならなおさらだ。
「ガルシアさん。冥土の土産という言葉を知ってますか? 僕にも分かるように話して欲しい。冥土の土産に」
 その言葉なら知っていると言わんばかりに、ガルシアは大仰に頷いた。
「あなた方が憎んでいるステファニー・ガルシアはわたしの妹です。しかし、あなた方が知っているステファニーはわたしなのです。2035年から1963年、当時十歳だったステファニーの体に入ったわたしなのです。ご存じの通り、わたしと高田さんは意識と肉体の分離の研究を行っていました。意識を分離させる薬剤が完成し、高田さんが飲んでもなにも起こりませんでした。理論的には意識が移動するはずなのに。しかし、わたしはその薬を飲み干すや、異様な痛みに襲われた。目が覚めると妹が溺れて死んだ湖が目の前に広がっていた。幼いわたしが湖で泳いでいた。湖畔にはテーブルと椅子が置いてあり、若い父と母がサンドウィッチを摘まんで談笑している。最初はただ夢を見ていると思いました。しかし、日が経つにつれて、これは紛れもない現実だと分かるようになりました。ミスター・高田の発明は成功したのだと。わたしの意識は時空を超え、死んだはずの妹に移った。わたしは確信します。世界を救わなければならない。その使命を帯びていたのです。2035年は……、この時間軸ではなく、わたしが以前いた2035年は地球環境の悪化によりもはや地球に住むのが困難になっていました。人類が地球に住めるのも後数年という状況でした。宇宙開発も間に合わない。そういう選択肢しかない中で人類を救う方法が、過去に遡り世界を変えるという方法です」
 ちょっと待て。それを是としろというのか。そのために、理恵が死に、弟が死に、僕が死ななければならないのか。高田がいま殺されなければならないのか。七十億の人間が死ななければならないのか。それがどうして人類を救うことになるのだろうか、僕には理解出来ない。
「ふざけるな、七十億人殺しておいて、人類を救っただと?」
「絶滅に比べたら遙によいことです。七十億人亡くなっても一億人が残ります。ゼロとイチの間には永遠の隔たりがあります」
 ガルシアはしらっと言ってのけた。
「教授。認められたらいかがですか? 人類を救うことに失敗したと」
 高田が言った。
「高田さん。日本にもあるでしょう。Easier said than done.と。たしかに、ベストではなかったかも知れない。しかし、最悪を免れたのは間違いありません。わたしの行いにより、わたしは今世界中の人間から忌み嫌われていますが、むしろ感謝されてしかるべきであると考えています」
 人類の絶滅を避けるために七十億人に死のワクチンを打って殺す。絶対に肯定出来ない。
「僕はおまえのやったことが許せない」
 ガルシアは呆れたように、
「では、どうすればよかったというのです? 地球が滅び、人類が滅びようとする社会がどれほど悲惨であるかあなたは知りません。わたしがあなたがたに言う言葉は一つです。Shut up! わたしのことを許せないのは分かっています。五年前にワクチンの毒が人為的であることが明らかになり、ステファニーは死ぬか殺されるかを選ばなければなりませんでした」
 高田はサイエンティストらしい冷静さと好奇心が混ざったような質問をする。
「2035年の教授が乗り移ったのは亡くなったステファニーの方のはずです。なのに、あなたはまるで自分が2035年からタイムリープしたように話す。なぜです?」

 

 

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やっぱり年末は何かと忙しい。しかし、コロナ様、とくに新顔のオミクロン様のお陰で忘年会とかが軒並み潰れているのはありがたや。やはりトレンドはフォーエバーコロナか。