訳あって小津作品を観なければならず、一番有名どころをとりあえず観た。
わたしは映画好きを自称しているくせに、小津安二郎の作品は観たことがなかった。もちろん名前は知っていた。が、いざ検索しようと、OZUと打って変換されずに戸惑うレベルだ。正解はODUである。
さて、期待しないで観たが、なんと一度も休まずに最後まで見続けてしまった。正直、なにが楽しいのか全くわからない。が、なぜか惹かれる。他人の家の中を覗いている、そんな好奇心がこの映画を観ていると湧いてくる。
アクションなし、サスペンス無し、ホラーもない、本当に台詞と役者の仕草だけで成り立っている。
内容は尾道から東京に出た息子を老夫婦が訊ねる、というものである。ただ、実の息子たちよりも、戦死した息子の嫁の方が優しいという設定。
実際の家族なんてそんなもんよ、という、息子に期待しすぎる親の気持ちがよく表れている。戦死した息子の嫁は一種のイデアであり、現実を相対化するための小道具のようなもの。
だと、わたしは思った。もっと感動的な見方も可能なので、それぞれご判断いただきたし。
ただ、この映画は新鮮だった。現在では絶対に撮られることのない映画だからである。昔の映画の良さ、というか、まず現在では絶対に撮られない故の新鮮さが心地いい。
そういう意味でも、映画史に残る名作かもしれない。