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第163回芥川賞候補作 破局 遠野遥 を読んだ 感想 レビュー

 

破局

破局

 

 

 

これで、今回の候補作は全部読んだ。

 

最初に予想を言ってしまうと、わたしはこの「破局」が取るのではないかと考えている。

 

筋骨隆々でモテモテの慶応ボーイ、陽介が主人公なのだが、性格がカミュの異邦人のムルソー的なのだ。

 

無感動というか、極度に理性的というか。

 

主人公はふと悲しみを感じる。しかし、その悲しみの理由を分析する。自分の人生は充実しているし悲しむ理由がみつからない。そして主人公は結論を出す。

 

「悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ」

 

善悪の判断も、「それがマナーだから」とか女性に優しく接する理由も「父親が女性には優しくしろ」と言ったから、など。

 

最初わたしはこの辺りを読んでいて、現代の若者の無関心ぶり、無感動ぶり、マナーや常識にとらわれて、空気を読めないことをいやがる、そういう気質を描いているのかと思ったが、もう少し深読みできそうだ。

 

そういう若者の気質の中にも、本質はドロッとした感情が巣くっている。その感情を抑えるのに苦心している。人間的な感情を闇の中に閉まっている主人公は、返ってその隙間から感情の光が漏れ、明暗をくっきりと見せてくれる。

 

結末も突飛だが悪くない。個人的にはオナニーの描写を細かく書く必要があるのかと感じるが、作品の味を損ねるほどのものではない。

 

いただけないのはタイトルである。もうちょっと他に付けようがあったのではないだろうか。読む前には興味をひかないし、読んだ後は別のタイトルだったらなおよかったに、と感じる。タイトルで三割損している。