わたしは洋画は基本字幕版でしか見ないのであるが、8歳児が一緒に観るというので仕方なく吹き替え版を観た。8歳児、すぐに飽きて消えるかと思いきや、最後まで観ておった。
8歳児は嘘と現実の違いはわかるのである。もののけ姫が現実ではないとはわかるのである。ただ、過去にあった現実をノンフィクションとして映画が再現する、という意味が分からなかったらしい。
「これは本当の話だよ」
というと、リアルタイムに撮影したもの、と認識してしまうのだ。昔現実であったことを俳優が再現して映画にしている、と説明してもわからない。
さて、本題。実話なのでネタバレもクソもなかろう。
現在もこういうお騒がせアーティストはいるが、彼のはスケールが違う。今はなき2棟のワールドトレードセンタービルの間に、ワイヤーを張って綱渡りをするというものである。もちろん、落ちたら即死。命綱なし、である。
誰もやったことがないから価値がある。実に明瞭な理論である。
この映画の面白いところは、主人公が綱渡りに目覚め、ワールドトレードセンタービルの間を渡るまでの経緯を鮮明に描くのであるが、我々観客は主人公の一味に加わって、一緒に偉業を達成している気分にさせられる。
計画が頓挫しそうになるのを、主人公たちと一緒にハラハラして、綱渡りが成功するのを一緒に喜ぶ。そんな感覚になれる希有な映画である。
ただ、この偉業は明確な犯罪であり、実際に主人公は逮捕されている。そのような犯罪行為を愛でて良いのか。だが、この行為はこの無味乾燥な世界に鮮やかな色彩を放った。そして、世間は快哉を叫んだ。それもまた事実であり、わたしとしても、こういう人間がいることを頼もしく感じるし、同じ人間として誇らしくも思う。だが、犯罪なのである。
偉業と犯罪が相伴う行為をわれわれはどのように受け止めたらよいのか、そういった精神の訓練にもなる映画である。
わたしはここは割り切れないものだと思う。法的に考えれば犯罪であり悪である。しかし、世界に活力を与えるという観点から考えれば善である。
これは善悪そにものについても示唆的である。つまり、善悪は多面的であり、それらは明確に分離するものではなく、あるときは背中合わせ、あるときは絡まっている、だからこそ、面白いし、世界には争いが絶えない。