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百の夜は跳ねて を読んだ。感想 レビュー

本作品は第161回芥川賞のノミネート作品である。古市氏は二度目のノミネート。

 

 

新潮 2019年 06 月号 [雑誌]

新潮 2019年 06 月号 [雑誌]

 

 

作品のあらすじは、高層ビルの窓の清掃人である主人公が老婆の依頼を受けて、清掃がてら高層ビルの室内を撮影するというものである。

 

テーマは都会に住む孤独な若者、アンド、高齢者である。

 

さて、どこから批評すればいいのだろうか。テーマを書いた時点でこの作品の全てを書いてしまったような気にさえなった。

 

まず、文章の美しさとか描写の妙は皆無である。

 

スーパーの食品の値段とか、家賃とか、goproの値段などが細かく記されていて、かつ主人公の給与なども明示されている。給与から見た物品の値段が心理描写に現れていて、後世の人が読めば資料的な価値はあるかも知れない。

 

主人公の職場の先輩は作業中に転落死したらしく、主人公にはその声が聞こえる。文章の合間合間で声が書かれているのであるが、物語にはとくに関係なく、単に一人語りをしている。

 

登場人物の紋切り型加減が半端なく、安心して読める反面、少しは人物を書けよ、とイライラしてくる。

 

冒頭のシーンで、チ○コ出しているおじさんとか、清掃のゴンドラのなかでフェラチオとか、そういう下品な作品かと思いきや、冒頭だけで、後は中学生並に純情な作品であったり(書き手が違うんじゃないかと思うくらい)、作品自体に統一性が感じられない。

 

氏は社会学者ということなので、書きたいことがたくさんあったであろう。テーマ先行の作品であり、テーマに沿って物語をはめ込んで行ったのであろう。

 

文学は同時代性が大切である。文学に限らず、芸術全般に言えることである。ただ、ただ時事問題を語るなら評論でいいわけであり、小説にするならば、その時事問題を小説にする理由がなくてはならない。本作品には小説にする理由が感じられないのである。

 

この作品は落選である。

 

だが、著者は安心していい。わたしの予想は往々にして外れるので。