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ジャップ・ン・ロール・ヒーロー 鴻池留衣 感想 レビュー

正月二日目。みなさんはなにをしてお過ごしだろうか。

わたしは三箇日は暇である。というか、なにもしないと決めている。だが、なにもしていないと不安の気持ちで一杯です。悲しきかな人生。小説でも読むしかない。

 

さて。

 

ニムロッドに引き続いて読んだのは鴻池留衣氏の「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」である。

小説教室で大人気の根本先生の著書、「実践・小説教室」には四種類の小説の読み方があると書かれている。

一つ目、著者の読み方

二つ目、自分の読み方

三つ目、マーケットの読み方

四つ目、賞の読み方

である。この中で一番大切なのは、著者の読み方である。著者が、どういう意図を持ってその作品を書いたのか、その設定にしたのか、その一文を書いたのか。

わたしは、マーケットの読み方は皆目見当がつかないので、1.2.4の読み方をしているつもりで読んでいる。

本作品は、ウィキペディアの体裁で書かれている。まぁ、その時点ですでに無理があるので、まず、受賞はあり得ないと思う。そして、「僕」というアーティスト名のボーカルの視点なのだが、これがどう読んでも「僕」の一人称であって、新しさを狙ったのは分かるのであるが、ちょっと無理があると思う。

大学の軽音サークルからデビューするという、ありきたりな設定なのであるが、話の内容はぶっ飛んでいる。

 

以下ネタバレ含む。

 

ダンチュラ・デオという80年代に存在したバンドのコピーバンド、ということで結成されたダンチュラ・デオ。ギターの喜三郎はダンチュラ・デオのギタリストの息子。どんなにネットを検索してもダンチュラ・デオは出てこないので、ダンチュラ・デオは喜三郎が拵えた架空のバンドだとみんな思っている。

読者もそう思っているし「僕」もそう思っている。

しかし、実際はそうではなく、80年代のダンチュラ・デオはCIAであり、西側を探っていた。そして、解散と同時に存在自体を消された。

はぁ? って感じだ。ダンチュラ・デオはそれなりに人気があったのだから、たかだか30年前の話、だれかが覚えていない訳がない。実際に覚えている人間はいる。

おそらく、著者はネットの情報が全てであると錯覚してしまいがちな現代において、ネットに存在しないものは存在しない、CIAや日本政府の闇の力で、ネットから葬られた存在、それを戯画的に描きたかったのかも知れない。

にしても無理がある。CIA、日本政府、秘密組織、実際にマイクロバス爆破とかで大勢死ぬ。だが、そんなことをしてまで隠さなければならない、ダンチュラ・デオであるのに、ドラマーは普通に生き残り、喜三郎の母親はアメリカから恩給をもらっている。いささか荒唐無稽が過ぎる。さらに、80年代のダンチュラ・デオは一体なにをやったのか? ドラマーがサクッと野放しになっている時点で、大したことはやっていないと思う。なぜ世界中の秘密組織がよってたかって、そのなにも知らない息子たちまで消そうとするのか。動機が不明である。

やはり、この作品は虚実の間を苦しくても進まなければならなかったのではなかろうか。読ませる力はあるし、場面場面は面白いのであるが、読後感が悪すぎる。

一口目に食って美味いかなと思った油ギトギトの肉が、段々うざくなった挙げ句、食い終わったあとに「あれは肉じゃなくて段ボールでした」と告げられた感じだ。

 

 

160回芥川賞候補作の一覧とかはこちら。選考委員会は、きたる平成31年1月16日。

ニムロッド 上田岳弘 感想 レビュー 芥川賞候補作たち - 文学・文具・文化 趣味に死す!

 

 

 

新潮 2018年 09 月号

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[実践]小説教室

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