昔、映画を観たときは特に面白いとも思わなかったが、この小説はすごい。野坂昭如の小説は迫力がちがう。独特の文体のせいもあるだろうが、ゴツリゴツリと岩を削るように書いている。その岩を砕く刃の音が読者に伝わってくる。
蛍の墓はなぜか学校で上映される映画で反戦的に使われたのが残念で、我々世代には女々しい左翼のイメージがぬぐいきれないが、小説は女々しさのかけらもなく、むしろ戦争で死んでいく兄妹は、子どもにとっての戦争を果敢に戦って死んだ、そんな印象さえある。
野坂は焼け跡闇市派と自称してそういう作品を書いた。バックボーンと呼べるものを背負っていた。さて、現代を生きる我々は一体何派なのだろうか?