文学・文具・文化 趣味に死す!

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カエルの楽園 を読んだ。

 

カエルの楽園 (新潮文庫)

カエルの楽園 (新潮文庫)

 

 

普通の小説ではない。おそらく、今の時代の日本国民以外、まったく意味不明な作品になるのではないだろうか。意味不明にならなくても、その感覚たるや後世の人々や外国人にはいわゆる「肌感覚」で理解することは出来ないだろう。そう言う意味で、文学の表現のあり方としては他に類のない貴重な作品だと思う。

話の内容は中国が日本を攻め滅ぼして日本人を奴隷にする、というSFだが、それを寓話の形にしている。

寓話は寓話なのだが、露骨すぎるところが何とも言えない。

ナパージュ=日本
スチームボート=米国
三戒=平和憲法
フラワーズ=シールズ
エンエン=朝鮮(在日)
ハンニバル自衛隊

ただ、この作品でもう少し突っ込んで考えたいのは、三戒の為に死すという話だ。

三戒を破棄するかどうかの演説で、人気者マイクが言う。
「三戒を守って、この国が滅んでもいいじゃありませんか。昔、ナパージュという素晴らしく美しい国があった――カエルの歴史にそんなふうに記されることは、光栄なことではないですか」

最近はあまり聞かないが、昔は日本の文化人や左翼の中には、山口瞳はじめこのような主張をするものが多数いた。

山口瞳は「人を傷つけたり殺したりすることが厭で、そのために亡びてしまった国家があったということで充分ではないか」「もし、こういう(非武装の)国を攻め滅ぼそうとする国が存在するならば、そういう世界は生きるに価しないと考える」

一応書いておくが、山口瞳は男である。

三島はこういう精神構造を、理念に殉じる思想と見た。戦前は国体護持のために一億総玉砕。戦後は平和憲法の理念の為に死する、と。

同じ平和憲法護持でも、その精神に殉ずるか、それとも道具的に平和憲法を利用するかでは雲泥の差である。

最近気になるのは、平和憲法の精神に殉じようとする原理的平和主義者がいないことだ。一生懸命反戦運動をしている人に、自衛隊についてどう考えるか聞いたら、防衛力は必要だという。攻撃されたらやり返す、という。これは平和憲法の理念に反している。共産党自衛隊を容認した。卑怯なのは9条をそのままにしての解釈護憲である。

カエルの楽園は大げさに書かれているが、この時代を考えるヒントとなり得るだろう。

 

 

山口瞳「男性自身」傑作選 熟年篇 (新潮文庫)

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