小説を書いていてよかったことがいくつかある。その中の一つに、腹が立つことや、悲しいこと、面倒なこと、人生におけるマイナスな出来事を小説にしようと思って書き留めておくだけで、随分気が楽になるということがある。
悲しみが深ければ深いだけ、怒りが大きければ大きいだけ、面倒が複雑ならば複雑なだけ、話としては面白くなる。無からプロットを考える必要はない。プロットは時間とともに自然にたまっていく。
ただ一つの難点は、あまりにも荒唐無稽な話が出来上がるということである。実際の人生で起きる出来事は、理不尽であり、非合理であり、無根拠なことが多すぎる。
現実は話のつじつまが合わないし、腑に落ちない。小説の方が合理的で美しいのだ。そのかわり現実のようなワイルドさはないが。
ふと思った。小説で喜びを表現するのは至難ではなかろうか。