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第165回 芥川賞 大予想!! 5作品を読んだ。


今回は正直予想が難しい。突き抜けた感じのものもなければ、特段劣っているものもない。さらに、群像新人賞受賞選考委員と芥川賞選考委員が被っている。普通に考えると、この作品が一番受賞に近いと思われる。

 

最初に結論、予想結果を述べる。

 

第165回芥川賞は 

 

 

受賞作なし!!!

 

と大胆予想をする。

受賞確率順に予想すると、


貝に続く場所にて>水たまりで息をする>彼岸花が咲く島>氷柱の声>オーバーヒート

 

ではなかろうか。

 

泣いても笑っても明日発表! さぁ、私が壮大に外すかどうかご覧いただきたい!

 

個別に寸評する。詳しくはリンク先をご覧いただきたい。

 

まずは「貝に続く場所」にて。


難解な作品である。しかし、その難解さ、訳の分からないゆえに芥川賞的とも言える。文章が複雑で荘厳なので一見すごく見える。それがハリボテなのか、中に続く偉大な建造物なのか、わたしにはわからなかった。選考委員にこの作品を激賞した島田氏がいるのも大きい。

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「水たまりで息をする」


標準的な文学作品。よくあると言っては失礼だが、どことなく既視感を覚える。ただ、小説としての完成度は今回の5作品の中では1番ではなかろうか。東京v s地方ネタがどこまで審査員に響くか。

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彼岸花が咲く島」


個人的には1番楽しませてもらった作品。ただ、こういうSF的な作品が芥川賞的かといえば、かなり遠いのではなかろうか。ジャンル的にエンタメ作品である。純文学的な内容ではない。

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「氷柱の声」


この作品も読みやすい。わかりやすい。ただ3.11関連作品というのが吉と出るか凶とでるか。はたして、文学は3.11を求めているのだろうか。「貝に」の方は3.11はあくまで全体の中のガジェットとして使われている程度でど真ん中ではない。

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「オーバーヒート」

 

辛辣に書くと、私小説と言うより日記である。所々に自慢が入っているのも鼻につく。この作者の自伝ではない作品が現れるまで、なかなか受賞は難しいのではなかろうか。折角哲学の素養があるのだから、それを活かした創作を読みたい。

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緊急出版とはいえもうちょっとマシな装丁は出来ないものか。

貝に続く場所にて 石沢麻衣 165回 芥川賞、ノミネート作品 を読んだ

明日が芥川賞の選考会なので、どうにかギリギリ5作品読破。

まとめは今晩にでも書こうと思う。 

 

 

久しぶりに読めない作品を読んだ。

おそらく、意図的に読みにくい表現にしていると思われる。

読みにくい理由は以下の通りだ。

 

舞台が外国

絵画及びキリスト教的教養が必須

登場人物が多数

登場人物の半分が外国人で横文字

時間軸がころころ変わる

難解な文体

 

苦労して最後まで読んだ。あらすじはお盆に3.11で死んだ友人が主人公のいるゲッティンゲンに現れる、というお話。

 

お盆に死者が帰ってくるのは日本では当たり前だが、外国に来てしまう、というのがちょっと面白い。また、3.11で波に掠われ遺体が上がらない友人なので、9年前と顔が変わらない。

 

私の読み方では、3.11という悲劇と、第二次世界大戦の悲劇を重ねているように感じた。だが、その2つは全く別物ではなかろうか。そのあまりに野心的なところに無理が生じてはいないか。

 

この作品はひょっとしたら内容を味わうものではないのかも知れない。書かれた文章、表現、言い回し、文字面、それこそがメインであり、内容は特に意味がないのかも知れない。そう考えると、辻褄が合う。そう思わせるくらい難解なのだ。

 

群像新人賞受賞作品で、群像2021年6月号に収録されている。併せて、選考委員の講評も収録されている。

 

この作品を理解できないのは、私が読み切れないだけで、ちゃんとした読み方があるのではなかろうか、と選考委員の講評も読んでみたが、やっぱりわからなかった。

 

選考委員の講評は二極化だった。一部を抜粋する。

まず肯定的な講評の島田氏は

「人文的教養に溢れる大人の傑作。描写を割愛して会話に叙述を溶かし込む今時のライトなスタイルに逆行し、風景や人物、事物のオーラを掘り起こす作業に作者は徹底奉仕している」

 

松浦氏は否定的な好評だった。

「旧時代的な文学のイメージにもたれかかりつつ、知性と教養で集めた様々な道具の並ぶ厚塗りの絵を提示することで何か重々しいものを表現し、また何ごとかを糊塗し得たつもりになっているのではないか」

 

難解な小説がどういうものか、挑戦したい方にはお薦めな作品だ。ただ、普通に小説を消費しようなどの考えで手を出すと痛い目に合う。

 

芥川賞予想だが、島田氏が芥川賞の選考委員なので、この作品を推さないわけがない。そう考えると、一歩リードしている。他がドングリの背比べ、な感じなので、受賞の確立は高いと思う。

 

詳しくはまとめで書こうと思うが、私は今回、受賞作無し、のような気がしてならない。

水たまりで息をする 高瀬隼子 165回 芥川賞、ノミネート作品 を読んだ

今回はあっさり近所の図書館で揃った。

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あらすじ

地方出身30代半ばの女性が主人公。東京住まい。OL。同年代の男性と結婚して都内のマンションにくらしている。旦那もサラリーマン。

 

ある日、旦那は飲み会で後輩から水をかけられ、水道水恐怖症となる。そして、以来、風呂に入らなくなる……。

 

風呂に入らないことにより悪臭を撒き散らす。そのことにより、徐々に社会と距離が生まれていく。

 

いきなり、社会との距離が生まれるのではなく、だんだん臭くなっていって、徐々に社会生活が営めなくなるところが面白い。

 

主人公は子ども時代に「台風ちゃん」という魚を飼っていた。その魚を河に放流しようとしたが、川に水がなくたらいごと置き去りにした。翌日の大雨で台風ちゃんはたらいから出た。(しかし、大雨なのにたらいが前日と同じ場所にあるとか、今ひとつわからない)

 

感想

 

個人的に文章もすごく好きだ。

 

ネタバレ有り! と言ってもネタを知っていたかと言ってこの作品の価値は損なわれない。

 

主人公が地方出身と言うことで、最後は地方に移住する。そうすることによって、東京と地方との対比も描かれている。

 

風呂に入らなくなる、という短編的なネタで200枚?ちかく引っ張るのはなかなかすごい。その分冗長な感じもしないでもない。

 

最後の川の増水とともに夫が消えてしまうところも賛否の分かれる所だと思う。どういう風に読んだら良いのかわからない。事故で片付けるのか、それとも、自殺と捉えるべきか。とらえ方で作品の内容が変わってくる。

 

夫の消失は台風ちゃんの消失のリフレインである。台風ちゃんを置き去りにした罪悪感と、旦那を放置した罪悪感なるものが重なる。

 

最後。また増水のあとの水たまりに魚が現れる。夫と魚は同格に扱われているような錯覚になる。

 

一番気になるのは、なぜ温泉に行かなかったのか。カルキのない温泉に行けば一発で解決したような気もする。

 

あと、わざわざ冷たいペットボトルをかけないで、湯船に沈めておいて、温かくしてから使えば良いのに、などと無粋な突っ込みを入れたくなる。

 

この作品は芥川賞的ではあるが、ちょっと弱い。文学的な表現、文学的な技法が余すことなく使われているが、素材がちょっと弱すぎる。三つ星フレンチレストランの厨房で素麺を作ったような、オーバースペック感が否めないのである。

 

これまで読んだ4作品のなかでは、これが一番受賞にちかい。

 

発表は14日なので、これから最後の作品を読む。