最初は映写技師の話で、古い映画館の中身など知らないので、なかなか興味深く読ませてもらった。主人公は映画技師のアルバイトをしている。かなり詳細に映画上映の手順が書かれている。フィルムの扱い方、停電の時、コマ落ち、などなど。
163回芥川賞候補作でも書いたが、この映画館のアルバイトの一人に太宰治の子孫なるものがチラリと登場する。「辛気くさくて使えないやつ」「すぐにやめた」という、それだけの登場だ。話の筋には一切関係がない。
話の内容は、主人公がバイトをしている映画館にDOQな女が務め始める。そのDOQとの交友がメインだ。
始めに言ってしまうと、受賞は無理だ。理由はいくつかある。
一番わからなかったのは年代である。いつの時代の話なのか。主人公の現在が40代で20代のころを回想するという内容。主人公の現在が2020年だとすると、2000年にはインターネットも携帯もそろっている。
だが、主人公の20代は携帯もネットもない、どう見積もっても昭和なのだ。この時代に曖昧さは大きな減点になると思う。
2つ。ご都合主義である。主人公がちょっと当たりをつけて調査すると、主人公が必要とする情報が容易に手に入る。
3つ。2つ目と関連するのであるが、必要な情報が秩序正しく現れるので、物語の中の謎が、ピタリピタリと淀みなくパズルがかみ合うように解決する。ちょっとしらけてしまう。
面白いかつまらないか、といえば面白い。そして読みやすい。だが、芥川賞ではない。
わたしが読んだのは群像二月号。