橋をからめた10編のものがたりが納められている。
どれも江戸町人の話であり、チャンチャンバラバラは入っていない。武士もほとんど出てこない。
舞台が江戸なので知った地名がちょくちょく出てくるので東京にゆかりのある人ならばその辺も楽しめるかも。
しかし、これらの作品、どの小編も冒頭1ページ目から物語に引き込まれる。この筆力はスーパーサイヤ人なみである。
人間の心のには本音と建て前がある。本音は言い換えれば「闇」とも言い換えられるかも知れない。その本来ひと目に付かないはずの闇の部分を、冒頭1ページ目からちらりと描く。すると、読者としてはその人物をあたかも旧来の知り合いのように感じてしまい、ページをめくる手が止まらなくなるのだ。
そして、江戸というギミックを見事に使い倒している。我々が想像する江戸時代というものをパッと披見させる。紋切り型と言ってしまえばそれまでであるが、紋切り型を使うからこそ出来る表現というものがある。
10編のうち、どの一つをとっても文学賞を受賞するに足る出来映えではなかろうか。藤沢を超える作家が出てこないのも頷ける話である。