埼玉文学賞の小説部門は、普通の小説賞とはちょっと違って、埼玉県民は題材はなんでもよいのであるが、埼玉県民以外は、埼玉の事物、風土、歴史など、埼玉と関連する作品でなければならない。
わたしはこの制約は埼玉県民にもかけた方がいいような気がする。埼玉県民だからといって、千葉県を舞台にした小説を書いたらやっぱり不利になるのではないだろうか。それに、せっかく埼玉文学賞なのだから、なんらかの埼玉的制約が欲しいところである。
で、2018年の受賞作なのであるが、舞台が所沢、という以外、どこにも埼玉は出てこない。
これぐらいの制約でいいなら、特に難しいことはないと思う。
ネタバレ有り。
子どもが事故死、妻と離婚という、新藤は人生に嫌気がさしていた。仕事帰り、ふらりと居酒屋に入る。すると、そこにいた客の一人が食い逃げをする。
新藤が店から出て歩いていると、先ほどの食い逃げ犯に出会う。食い逃げ犯も新藤と同じく人生に嫌気がさしている。同情した新藤は食い逃げ犯の酒代を立て替え、様々な話を聞く。
中身は、ちょっと浅田次郎的なハートウォーミングな作品だった。これといって奇を衒うこともなく、物語は淡々と進む。ただ、場面のほとんどが居酒屋での会話なので、絵的には退屈である。
なんとなく、プラトンの対話もののような感じもする。
新藤の娘は5才で、妻と一緒に買い物に行ったところ、ブレーキとアクセルを踏み間違えた80近い婆さんの暴走車両にひき殺された、という設定なのだが、怖いくらい時代を先取りしている。
2018年の受賞作なので、締め切りは2018年の8月末日。飯塚上級国民の池袋暴走事件が2019年の4月なので、まさに今日的な問題である。
娘を年寄りの暴走事故で失った両親の悲しみ、というのは、まさにどう時代的なものではなかろうか。
短い作品なので、ぜひ、サクッと読んで欲しい。上記のリンク先に全文掲載されている。