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美しい顔 北条裕子 感想 レビュー

もういい加減「平成最後の○○」も飽きてきたところで、平成最後の投稿。

 

「美しい顔」を読んだ。

前回の芥川賞にノミネートされて、剽窃騒ぎが起きてあえなく落選した作品だ。だが、わたしはこの作品、圧倒的な作品だと思った。

 

あんな剽窃騒ぎさえ起きなければ、ぶっちぎりで芥川賞を取っていただろう。

 

諸賢はノミネート作品を読み比べたことがあるだろうか? 芥川賞にノミネートされるくらいだから、どの作品も素晴らしく、甲乙つけがたい、いずれが菖蒲か杜若、のような作品が並んでいると考えるかも知れない。

 

たしかに、そういう回もあるかも知れないが、普通は玉石混淆で、ドングリの背比べみたいな場合もある。

 

「美しい顔」は抜きんでている。剽窃は確かにまずい。だが、この小説の本質とはまるで関係なく、なぜ、あんなくだらない剽窃をしたのか、むしろ謎である。そんなことをする必要はまるで無かったのではなかろうか。

 

わたしはむしろ、剽窃そのものよりも、3.11を題材にしていると言うところに、世間の反感を買ったのではないかと考えている。その世間がこの作品を糾弾するときに、剽窃は恰好の獲物だったのだろう。

 

だが、この作品、3.11もまた本質ではない。講談社はこの作品を無料公開にして、その本質を理解してもらおうと思ったかも知れないが、それは難しい話である。普通に読めば3.11の話でしかなく、真のテーマなど小説を読み込んでいる人間でなければわからないだろう。

 

では、この作品のテーマはなにか、本質はなにか。一言で言えば「喪失」である。母を失った喪失、友人を失った喪失、日常を失った喪失、それらの喪失を受けて、主人公が様々な姿を演じるのである。

 

主人公がマスコミを手玉に取るシーンが目立つが、では、マスコミの存在はなにかというと、喪失を探しに来た日常なのである。

 

わたしはこの作品、あえて3.11を背景にする必要はなかったと思う。3.11を背景にすれば様々な難癖が付くのは予想できたはずである。架空の災害でよかったのではなかろうか。

 

今調べたら単行本が出ていた。たぶん、剽窃騒ぎになったところは改編されていると思う。わたしが読んだのは群像2018年6月号のほうである。

美しい顔

美しい顔

 

 

 

群像 2018年 06 月号 [雑誌]

群像 2018年 06 月号 [雑誌]