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さざなみ軍記 井伏鱒二 感想 レビュー

 

さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記 (新潮文庫)

さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記 (新潮文庫)

 

 

小説教室の中でも触れられている。

いかに、小説にリアリティを持たせるか、という下りで、

井伏鱒二のさざなみ軍記は現代語で書かれているにもかかわらず、いかにも平家の人間が話して考えているように見える。小説はいかに自然に書くか、自然に見えるかが大事」

というこの例として挙げられている作品。

 

個人的には結構取っ付きにくい作品であった。中頃から面白くなるのだが、中頃まで読むのは苦労した。歴史小説全般に言えることであるが、史実のディテールを知っているかいないかで、理解度が相当変わってくる。

 

わたしはほとんど平家物語の知識はないが、平家が潰走している様はよくわかった。

 

平家が源氏に負けた、くらいの知識ではこの作品は堪能できないかもしれない。敦盛の死とかも、歴史を詳しく知っている人にとってはものすごく感動のシーンなのであろうが、敦盛ってだれ? では話にならない。

 

ラストはなかなか謎で、え、これで終わり? と感じた。が、悪い終わりではなく、「純文学はどこで終わっても良い」を地でいった感じ。

 

文章はもちろん上手いのであるが、うまさを感じさせないところがまたうまい。簡潔に、淡々と、人々を書いていく。こういう文章は書こうと思ってもなかなか書けないのである。

 

例えば、李成が鷲を射るシーン。

 

彼は先ず松の木のてっぺんの鷲を睨み、静かに矢をつがえて弓を揚げた。そうして暫く満に引き設け、弦音たかく切って放った。鷲は翼をひろげ飛び立とうとしたが、そのまま崖下めがけて落ちて来た。李成は早くも二の矢をつがえていた。しかし鷲は胸を射ぬかれて磯に落ちたので、むしろ李成はきまり悪そうに弓を伏せて引きさがった。

 

という感じで、淡々とした、贅肉をそぎ落としたような文章が続く。一読の価値のある作品である。

 

 

[実践]小説教室

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