「青が破れる」も読んだが、正直この人の作品は苦手である。だから、わたしの評価はどうしても辛口になるので、そのことをまず断っておく。
1R1分34秒はボクサーの話である。
デビュー戦をKO勝ちして以来、2敗1分けのボクサーが勝てないことや、試合、ボクシングについて思い悩む。
ボクシング、という競技を通しての人生論的な感じの思い悩む主人公。かつ自虐的。
太宰の人間失格のような自虐的で思い悩むタイプの小説は好きなのであるが、これは少し毛色が違う。びっくりするくらい可愛げがないのである。尊大で、説教臭い。
おそらく、作者はそれを狙っていて、実際、最初は可愛げがあるのであるが、パチンコ屋の打ち上げで喧嘩してから段々荒んでいく。この荒み行く心境の変化に、現代人の若者の本質がある、のかないのかは知らないが、そう読まそうとしている。
回りくどいのだ。この回りくどさに耐えられる人はいいかもしれないが、一般の読者は厳しいのではないか。さらに、思い悩むといっても次の試合のことであるし、さすがにこれを世界に演繹するとなると、それには相当の読者パワーが必要で、そこまで出来るというか、そこまでわざわざ深読みする読者はいないのではないだろうか。
良かった点はボクシングのトレーニングや、事務の雰囲気が描かれている点。そこは素直に面白かった。
いくら純文学とはいえ、やはり動きが必要である。部屋で思い悩むだけなら、小説でなくて論文でいい。
さて、わたしはこれの受賞はあり得ないと思う。ただ、著者は安心してくれていい。わたしの予想は外れるから。第159回で実証済みである。
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