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梅の蕾 吉村昭   年賀状 林真理子  を読んだ

梅の蕾 吉村昭

陸の孤島と言われる三陸の村の診療所に医者がいなくなって久しい。村長はどうしても村に医者が欲しい。そこで、いろいろ探すが、一人、妻が山菜狩りが趣味だという医者がいて、その人が来てくれることになった。

しかし、その妻は余命幾ばくもなく、山菜狩りを一通り楽しむと死んでしまう。医者はそれで村から離れようとするが、妻の葬式で、村のものは医者の治療を恩義に感じ、バスを連ねてやってくる。それに心を打たれた医者は村に残る。というハートウォーミングな作品である。

わたしはこういう悪人が出てこない作品が好きである。映画化などしたら見栄えがする感じだ。村の事情や風景、医者と村民のやりとり、全てが淡々と描かれている。贅肉を極限までそぎ落とした作品という印象を受けた。


年賀状 林真理子

ある日、妻がパソコンを教えて欲しいと言ってきた。その内容は年賀状作りだった。「インターネットをしたい、などと言いだしたらどうしようかと内心案じていた」など、時代性を感じさせる表現がある。

この作品の背景には、デジカメで写真を撮り、家のプリンターで印刷して年賀状を出す、そういう時代が到来した瞬間がある。1997年の作品である。むしろ、その時代にしてはかなり最先端である。

内容は、浮気癖のある主人公が、会社の女を引っかけたまではよかったが、女がなかなか切れてくれなくて、毎年の年賀状にそのことが、主人公にだけわかるようにチクリチクリと書かれている。

しかし、思わずにやけてしまうところは、回りに気づかれていないと思っているのは主人公だけで、妻を始めみんなにバレている、そういう恥ずかしさが作品には描かれている。時代性といい面白く仕上がっている作品である。

 

いずれもこれに収められている。