近年最も有名なSF小説ではなかろうか。では、話の内容がSF的かというと、それほどSFSFしているわけではない。ガジェットも未来未来しているわけではなく、現在のテクノロジーの延長に、そう遠くない将来可能であるようなものだ。しかし、だからこそ、SF読者ではない人にも多く受け入れられたのだろう。
以下ネタバレ!
自らの心理描写と戦闘描写で話が進んでいく。物語的ではない。
話の本筋は、ジョンポールという言語学者が人々を虐殺においやる文法を駆使して後進国に内乱を起こし、先進国にテロが飛び火するのを阻止していた。しかし、後進国に内乱を起こしてばかりのジョンポールを殺害することになる。
だが、アメリカの特殊部隊はジョンポールを殺してしまう。ロード・オブ・ウォーを見たばかりなので、黒幕は合衆国大統領、とかかな、と期待したが、その期待は外れて、もっとパンクな結末が用意されていた。
なんと、虐殺の文法を操るジョンポールを殺そうと頑張っていた主人公の特殊部隊隊員が、ポールから文法を教わって、アメリカ国内で使ってしまうという落ち。おお、そう来たかと驚かされる。
戦闘描写は秀逸で、環境追随迷彩をまとった戦闘員が幽霊のように動く。被弾した迷彩の裂け目から肉や血が光る。この美しさは引用しないと伝えられないので、引用する。
環境追従迷彩で幽霊のようにおぼろな人影たち。鮮やかな紅い点がいくつも動いているのが見えた。傷口だ。断面だ。腕や足の切り株だ。炸裂点近くに立っていた二人の兵士それぞれの、脚が吹き飛んだり腕がなくなったりしているのだ。剥き出しになった断面が、迷彩の溶け込んだ背景の中でぴょんぴょんと血を噴出しながら踊っているのだ。