わたしの電車に乗る楽しみの一つは、面白いコピーを探すことである。
コピーはイメージ戦略なので、コピーを見た瞬間に商品が分かる必要はない。むしろ、分からなくていい。「お? 何のことだろう?」と注意をひいて、本文へと引っ張るのがコピーの役目だ。
今回目をひいたのがこのコピー。
「知らない私より、知っているわたしに。」
最初は、どうせまた大学の宣伝だろうと思ったが、どうも雰囲気が違う。近づいて確認すると、なんと遺伝子検査の宣伝である。憶測だが、最初のワタシを漢字一文字で記し、次のワタシを平仮名にしたのは、遺伝子を開いたイメージなのかもしれない。肝心の広告の内容は、
「遺伝子検査をして、自分の病気や体質を調べよう」
というもの。背筋が凍った。ガタカの世界を思い出した。もし、遺伝子検査で病気や能力の傾向が本当に判明してしまったら、企業や大学は、履歴書と一緒に遺伝子検査の結果を添付するように要求するだろう。例え政府がそれを禁止したとしても、政府や警察が遺伝子情報を活用するのは見え見えである。通信の秘密だって、犯罪防止の前では丸裸だ。
例えば警察官採用試験でも、「臆病の遺伝子」を持ったものは不採用、とか、病気リスク遺伝子で保険の金額が変わったり(調べたらすでに準備済みだった)。最近、車関係の事故が多い。免許更新時に遺伝子情報提出義務化などは、悲劇的な事故が増えれば増えるほど、その圧力は高まるだろう。
わたしはいずれガタカの世界は訪れると思っていた。だが、こんなにも速く訪れるとは。
技術の発展は手放しで礼讃できるものではない。原子力爆弾等、この世には生まれなければ良かった技術が山ほどある。しかし、技術の進歩は人類が存在する限り、避けては通れない宿命である。
もちろん、悪い面ばかりではない。遺伝子検査で病気の早期発見が本当に可能になるかもしれない。この広告のサイトを覗いてみたが、主にその趣旨だ。ただ、身長や体重、髪の太さ、などの項目もある。我が子に試したくなる親は多いだろう。検査キットはネットでも注文できるし、ビックカメラ、サンドラッグでも買えるらしい。検査キットに唾液をいれて送り返すというもの。唾液さえ採取できれば敵の調査も可能だ。
というか、調べたら遺伝子検査キットは世に溢れていた。検索をかけたらザクザク出てきた。DHCなどはハゲ遺伝子検査と一緒に「ハゲ遺伝子用サプリ」も販売していた。いかにわたしが世事に疎いか思い知らされた。ガタカの世界はとっくに来ていたのだ。
我々は便利な世の中を享受するならば、恐怖もしなければならない。遺伝子操作も時間の問題である。
http://mainichi.jp/articles/20160402/ddm/001/020/186000c
↑遺伝情報、保険に活用検討 病気リスクで料金に差も