銀座などに行くときは、いつもイタリア製生地のスーツを着て、立派な靴を履き、本革製のビジネスバックを携える。もちろん、ネクタイもしっかりと締める。
しかし、先日はタバコの燻製にならざるを得ない場所に赴かねばならず、作業着と位置づけているスーツを着ていて、その格好のまま日本橋三越の紳士服フェアに行った。
ジャケットはよれよれ。トラウザーズに至っては若干のクリースラインとシミが付いたもの。ワイシャツは5枚で2980円のネット購入。もちろんノーアイロン。靴は餃子靴。鞄はリュック。時計だけはゴールドのちょっと良いものをしていたが、明らかに不審者である。
するとどうであろう。いつもはあんなにわらわら寄ってきて、熱心に売り込みをかける販売員がまるで寄ってこない。声すらかけられない。
販売員は諸賢が想像するよりもはるかにこちらを観察している。一度販売員の様子を観察してみるといい。声をかけてきた販売員の様子を、服を選ぶふりをして盗み見て欲しい。諸賢の姿を上から下まで真剣な表情で嘗めるように視線を這わせていることだろう。
それは販売員にとって必要なことで、顧客がどのような嗜好をもっているか見極めること。そのために必死に観察しているのだ。販売員にとって、品物を購入してくれるものが客であり、効率的に販売を試みようと思えば、購入する確率が高いものを相手に売り込みをかけるのは自明の理である。
試着してみろ攻撃がないので、ゆっくりと生地や物を見ることが出来た。もし、ゆっくりみたい人はちょっとよれた格好で行くと良いかもしれない。